≪第一戦≫ 対 藤田 (2017.11.23 日進)

  1 2 3 4 5 H E
藤田   0 2 0 1 3 3 1
名大医 1 4 7 0 1x 13 6 0

藤田 :三宅(2)、加納(2)-十日市

名大医:金谷(5)-伊藤

 

一塁打:加藤、廣田、梅村、伊藤

二塁打:廣田

三塁打:安倍

本塁打:

 雨がしとしとと降りしきる村で、女の叫び声が響く。それも一人の声ではない。妻や娘を守ろうとこの獣どもに立ち向かう男たちの怒号と、その直後に獣に返り討ちにされ絶命する男の断末魔の叫びが聞こえる。

 

1428年、後に百年戦争と言われるイギリスとフランスとの戦争が始まってからもう90年以上が経っていた。イギリスの猛攻に、一時は猛将ベルトラン将軍の活躍で盛り返したが、その後、再びフランス本土の北半分をイギリスに奪われ、まるで5313のコールドゲームのようだった。

 この当時、常備軍などというものは存在せず、王や貴族は一部の騎士を除いては、10~20人ほどで構成される傭兵隊を雇い戦争をしていた。傭兵隊は騎士道などという気高い信念など持たない、より多くの金を求めて戦場を渡り歩くゴロツキ集団だ。戦場を離れれば、ただの盗賊団に過ぎない、いや、殺しのプロである彼らはそんな生易しい物ではなかった。傭兵隊の通った後には鼠一匹残らないのだ。雨降る秋の夜に、今日もフランス南部の小さな村が傭兵たちの略奪の餌食になっていた。

 一軒のさびれた旅籠の二階の一室でクェンセーは、村で部下たちが略奪や強姦を繰り返す中、ベッドに横たわり天井を見つめていた。「犯すときは口を塞げと言っただろうが。うるさくて眠れやしねえ。」そんなことをつぶやきながらも、もう女の叫び声になど何も感じない。

 寝台のこの男こそ、村を襲う傭兵隊の長(シェフ)、「堕落のクェンセー」こと、クェンセー・ドゥ・ゴウである。数え切れないほどある傭兵隊の中でも、その無法者ぶりでは有名になっている傭兵隊『ボルドーの狼』を率いる男だ。歳は22、決して屈強な体を持っているわけではなかったが、その男らしいが優しそうな顔立ちは何とも言えない凄みをもっていた。

  「キィ」

扉が嫌な音を立てて開くと、部下のアンドレがその傍らに痩せこけた15歳ほどの娘を連れて部屋に入ってきた。

「シェフ。金髪の娘連れてきましてぜ。この村では一番だとおもいますぜ。おい。娘。シェフは優しいから可愛がってくれるぜ。」

アンドレに娘を置いて出て行くよう言って、そのまま寝台で横になっていた。「145の痩せた娘など、血気盛んなあいつらの好みではない。肉付きのいい女を片っ端から犯して、シェフの俺にも何かってことで回されたんだろう。あいつら、無駄に気遣いやがって。」そう思っていたが、部屋の片隅に娘が立ったままだ。これでは何だか監視されているような気分だ。

「おい、いつまで突っ立てんだ。こっち来いよ、寒いだろ。」

そう言って娘をベッドに向かえるように布団を上げると、娘は恐る恐るベッドに入り背を向けてクェンセーの横に寝た。クェンセーはそのまま彼女を後ろから優しく抱くと、彼女の背中が震えていた。

「泣いてるのか?」

「村の人、殺されちゃったから。」

傭兵隊に物資を提供できないと、傭兵たちに力づく村の全て奪われるなど当時の人々にとっては当たり前のことだった。

「そうか、すまねえな。母さんはどうした?」

2年前にペストで。」

「そうか、お前、名前何て言うんだ?年は?」

「シルヴィ。15歳。」

「シルヴィか。俺の妹と同じ名前だな。シルヴィ、今日はここで寝ろ。」

そう言うと、彼女を抱いた腕を解き、天井を見つめた。そして、あの日を思い出した。父、ゴウ伯とその妻である母シルヴィアが殺され、城が焼かれたあの日のことを。

 そして、シルヴィはくるりと周り、クェンセーの方を向くと、その男らしいが優しそうな横顔を見ると、傭に襲われた一日の疲れからか、その横顔に安心したのか、眠りに落ちていた。

≪第二戦≫ 対 藤田 (2017.11.25 浜医グラウンド)

  1 2 3 4 5 6 H E
藤田 0 0 1 1 0 0 2 5 4
名大医 1 0 7 1 1 2x 12 11 1

藤田 :三宅(4)、稲熊(1)、加納(1)-十日市

名大医:金谷(4)、下田(2)-伊藤

 

一塁打:安部2、伊藤、小野島、近藤2、岩瀬3

二塁打:梅村

三塁打:小野島

本塁打:

 暗黒の時代といわれた当時でもフランス、アンジュー地方のゴウ伯の領地は小さいながらも、肥沃な土地と、温暖な気候、そして何よりゴウ伯の人柄の良さのおかげで平和で豊かであった。

 英仏百年戦争といっても、イギリス国民とフランス国民が戦ったという近代の戦争のような単純な構造ではない。実際のところ、フランスの貴族達が自分の勢力拡大、あるいは保身のためイギリス王家とフランス王家のどちらにつくか、という駆け引きと戦闘を百年続けていたのだ。小さな領地を持つ貴族(騎士)がその権力争いに巻き込まれ、大貴族にその領地を奪われていく中、歴代のゴウ伯はその小さくも豊かな土地と領民を守る為うまく立ち回ることで維持してきたのだった。

 1415年のノルマンディーに上陸したヘンリー5世率いるイギリス軍の侵攻がその翌年にはアンジュー地方にも達しようとしていた。内政の混乱で身動きの取れないフランス王家にイギリス軍を止める力はなかった。ゴウ伯は何とか領地を守る為、イギリス軍と交渉を試みるも、圧倒的力を持つイギリス軍にとっては交渉に応じるまでもなかった。領地の全てを奪えるのだから、奪えばいいのである。そして、運命の日14161125日が来た。当時クェンセーは10歳だった。

 交渉に失敗したゴウ伯はイギリス軍の侵攻から何とか領民だけでも逃がそうと必死だった。城にある全ての馬と馬車を使い、土地の女子供と老人を南へ走らせ、彼は若い男と城の騎士合わせて300人程度と共に城に立てこもった。そして、遂に、イギリス軍の部隊1万が森の奥から現れた。それを見るとゴウ伯は皆を鼓舞した。

「我が民よ!我らはここで死ぬ。だが、その死は無意味ではない。女子供の逃げる時間を稼ぐのだ。神は我らと共にあり!」

そう叫び、天に向かって剣を突き上げた。

「おーー!」

普段農奴(もっとも、ゴウ伯の領地の者は農奴というほど虐げられてはいなかったが)であった男達も今や騎士となり雄叫びをあげた。しかし、その時ゴウ伯はその中に10歳のクェンセーと男装した妻シルヴィアを見つけた。息子の小さな体と、男装しても尚美しい妻の姿を見逃すはずはなかった。二人はシルヴィアの実家で大貴族のプロヴァンス公の元へ逃げるよう召使と共に逃げたはずだった。しかし、二人は召使だけを逃し、兵士に紛れ城に残ったのだ。

「殿、私はこの土地の母です。共に戦います。」

逃げるにはもう遅すぎたため、戦いの間隠れているよう説得したが聞かなかった。それは気高き騎士である父を見て育った息子も同じであった。しかし、その時父は最初で最後の暴力を息子に振るった。そして息子を気絶させるとそれを妻に渡し、城の地下の隠し通路から息子を城外に連れて逃げるよう命じた。だが、彼女は息子を城外に置くと城へ戻ってしまった。

 クェンセーが目覚めると城外の木陰だった。眼の前では両親や領民のいる城壁をイギリス軍が取り囲んでいた。もはや、彼が城へ戻ることはできなかった。そして戦いが始まった。イギリス軍はその圧倒的兵力と新兵器大砲によって城を崩そうとするが、鬼と化したゴウ伯領軍兵士に苦戦を強いられた。しかし、3001万では、勝ち目がなかった。まるで、2126回コールドゲームだった。結局防御は破られ、大量の兵士がなだれ込むと、苦戦を強いられたイギリス軍は拠点とすべき城を腹いせに焼き払い、ゴウ伯夫妻と生き残った兵士を殺したのだ。夫人が慰み者にされず、1兵士として殺されたことと、領民が逃げ切るには十分な時間を稼いだことがゴウ伯の不幸中の幸いだったのか、彼は処刑される時、満足げな顔をしていたという。